I INTERPRET LONDON

ロンドン在住の通訳者平松里英のブログ

Month: 1月 2017

フォーカスグループインタビュー(FGI)の通訳 [2] 表現と通訳

FGI

FGI

ロンドン在住日英通訳者の平松里英(rielondon)です。

今回は 表現と通訳 について取り上げます。前回は通訳環境についてでした。

フォーカスグループ(グルイン)のワークシートで使う表現

「フォーカスグループ」あるいは「グルイン」のセッションの中でよく使われるワークシート。もともと日本語で書かれているものを、海外の対象者向けに現地の言語に訳されるのが普通です。このときポイントになるのが、日本語で表現されているニュアンスがターゲット言語でもそのまま、あるいはできるだけ近い感覚で伝わるかどうか。

商品のイメージを伝えるフレーズは、つまり商品のコピーであることが多い。コピーライティングされているので、日本語がかなり練られています。しかし、その効果は日本語だから通じるのであって、他言語に辞書的に置き換えても、ニュアンスは伝わりません。

100%、伝わることは「ない」と思った方がいいでしょう。

これがいわゆる「ロスト・イン・トランスレーション」です。

ではどうやって準備したらいいか。

事前に翻訳を依頼し、翻訳してもらったものはそのまま使わず、モデレーターとの事前打ち合わせの時間を使ってじっくりとすり合わせすることです。

たとえ日本なら誰でもわかる感覚でも、海外ではダイレクトには通じないことがあります。

その概念自体が存在しない、

その体験自体が存在しない、

その感覚自体なじみがない、

など、フォーカスグループ(グルイン)の依頼主の意図を理解してもらうことが思いのほか手こずることも。

おいしいコーヒーを飲みたいと思ったらカップを温めておくように、

収穫率の高いグルインを実現させるには、適切な準備こそが成功させるコツ。

通訳を入れて効果的に事前の意思疎通を図ることは適切な準備のひとつです。

そのためにも当日の打ち合わせ時間は十分に取り、通訳者を交えて、打ち合わせを行うことをお勧めします。では通訳なら誰でもいいのかというと、もちろんそうではありません。

同じプロでも、いろんな通訳者がいるからです。

フォーカスグループ(グルイン)では

  • 適任の通訳者を選ぶこと
  • 通訳が入ると2倍時間がかかることを覚えておく

この2点を押さえておくことが大切です。

適任の通訳者を選ぶには

第一に、現地のことばに詳しい人であること。つまり、ロンドンで行うグルインならロンドンの通訳者を使うこと。当たり前に聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。例えば、電話通訳だからとアメリカにいる通訳者やオーストラリアにいる通訳者につないでしまう会社もあります。英語の通訳者ならどこの国でも同じ、と手配する会社ですら、そういう思い違いをしているくらいなのですから。

二番目に、当該商品あるいはカテゴリーに関心がある人か、ある程度マーケティング分野に明るい人。

三番目に、ことばの温度を擦り合わせることを心得ている人。普段から日本語のコピーはもちろん、英語のコピー、とくに自分が住んでいる地域で目にするコピーに関心を持って触れている人。キャッチコピー、リードコピー、ボディコピーなど何でもいいのですが、表現やことばのリズムに対してアンテナが立っている人。 コピーライティングの心得があると話が早いのでいいですね。

また、表現のすり合わせでは、元の表現(起点言語)と英語の表現(目標言語)との温度色合いを近づけることのほかに、実際のグルインのやり取りの中で使う表現として適しているか、というのも忘れてはならないポイント。

通訳が入るミーティングの時間は2倍

もう一つ忘れてはならないのが、通訳が入るミーティングが時間を長めに見ておく必要があること。
グルインで使う最適な表現をじっくり、かつ効率的に話し合うなら、対面で逐次通訳が一番適しています。

逐次通訳の場合、双方の話し手と通訳が交互に話すため、実際の内容の2倍程度の時間がかかるのです。内容的には「30分あれば大丈夫かな」というようなミーティングなら1時間見ておく必要があります。

フォーカスグループ対象者の発言のなかの表現

グルインを通して意味だけ訳出していけばいいと考えるクライアントと、ことばもピックアップしているので英単語と日本語の意味と両方ほしい。できれば発言がネガティブなのかポジティブなのか、どちらかわからないので適当に応えているのか、そのあたりのニュアンスが分かるように訳してほしいとおっしゃるクライアントも。

アウトプットの方法は、ひとつにグルインと言っても、案件ごと、クライアントごとに異なるので、事前に話し合っておくといいでしょう。

フォーカスグループのセッション中の表現について

今回、日本語のこの単語(フレーズ)には英語ではこの単語(フレーズ)を当てはめる、というように何度も登場する表現や、キーとなる語やフレーズがある場合には、あらかじめ統一しておくと、グルイン実施のあとのまとめ作業や分析もしやすくなると思いますよ。

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▶ 関連記事 フォーカスグループインタビューの通訳[1]

 

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2017年ダボス会議 中国は国家主席が初出席、ドイツは今年も欠席

習国家主席とダボス会議

習国家主席とダボス会議

 

ロンドン在住日英通訳者の平松里英(rielondon)です。今回は中国は初の国家主席が参加、その反対にドイツやフランスなど西側諸国の首脳クラスは欠席という今年のダボス会議を取り上げます。「気になる英語表現」は最後にあります。

【今日のニュース素材】 “Xi to be first Chinese leader to attend Davos World Economic Forum(10 Jan, 2017 Reuters)

【ざっくりサマリー】
✔ 今回の「ダボス会議」では初めて中国の国家主席が出席
✔ 中国の狙い
✔ ドイツ、フランスなど欠席

1月17日から始まる2017年ダボス会議

今回は1月17日から20日まで開催される2017年世界経済フォーラム(通称 ダボス会議)について取り上げます。

同記事では、

ダボスで開かれる世界経済フォーラム、今年はグローバリゼーションに対する大衆の怒りの増大と米大統領就任間近のドナルド・トランプ政権について重点を置く
the World Economic Forum (WEF) in Davos, which this year will dwell on the rising public anger with globalization and the coming U.S. presidency of Donald Trump.

とはっきりと書かれているように、1月20日のトランプ米大統領就任を目前に控え、各国指導者、企業のリーダー、そして市民も、全員が「焦点がブレないように」「惑わされないように」各人が意識的に取り組み、努力していくことの重要性を世界に呼びかけていくのでしょう。

中国習近平国家主席がダボス会議に初出席

中国は1979年からダボス会議に出席しており、これまでは「序列2位の首相どまり」であったが、今回は序列1位の国家主席が出席する模様。 スイス滞在は15日~18日でジュネーブの国連事務局や世界保健機関(WHO)、国際オリンピック委員会(IOC)を訪問する予定だとか。

中国として今回のダボス会議の主役を取りに行く恰好だ。

Xi will take centre stage at the Jan. 17-20 forum with China presenting itself as a champion of globalization.

主席はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉からの撤退を表明しているトランプ次期大統領が決定した米大統領選の数日後に行われたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で、保護主義への反対を強調。
Xi led a forum of Asia-Pacific leaders in Peru in November in vowing to fight protectionism, just days after Trump won the U.S. election having pledged to pull out of the 12-nation Trans-Pacific Partnership (TPP) trade deal.

中国の希求する全世界の経済秩序の形成」を標榜する中国は、2014年北京のAPECでFTAAPの早期実現を唱えた際に日本・アメリカは難色を示した(と認識)しており、オバマ大統領はTPP構想の実現に積極的であるが「この点においては中国と一線を引いて」おり「中国はアメリカを中国側に引き寄せる」ことができなかった。 (Newsweekジャパン「ペルーAPECで習主席FTAAP強調―北京ロードマップ

」)

中国はこれまでも貿易における市場へのアクセスがない、中国に対する保護主義的な施策だと批判的であった。製造強国を目指した「2025年メイド・イン・チャイナ」計画 [今後十年における製造業の発展のロードマップとして2015年に発表] では最先端のIT技術やロボット技術を含む分野での国内製造を革新的に推進することを示している。
Foreign businesses in China, however, have long complained about a lack of market access and protectionist Chinese policies. These include a Made in China 2025 plan that calls for a progressive increase in domestic components in sectors such as advanced information technology and robotics.

世界の指導者や財界人が集まるダボスで、中国は存在感を示し、トランプ氏が就任する前の実質アメリカ不在の数日間だけでも先に交渉を進めることでトランプを牽制するつもりなのでしょうか。

そして、昨年からの西側の乱れを逆手に取り、ドイツ(メルケル首相)が逆境で足踏みをしているうちに駒を進めたい、という思惑なのでしょうか…。

2017年ダボス会議 ドイツ、フランスなど欠席

3000名に上る参加者には、各国首脳、中央銀行、企業約1000社から約1800名の経営者層が含まれるが、常連のドイツのメルケル首相は昨年に引き続き欠席。フランスのオランド大統領も今回は欠席。カナダのトルドー首相欧州委員会のユンケル委員長も欠席です。

いずれも米大統領就任を目前にトランプ氏と会うことになるのを避けていることと、議論の中心が大衆の増大する怒りと不均衡、そしてトランプ氏になるということですから、ここで発言するわけにはいかない、というのも宜(むべ)なるかな。

イギリスのEU離脱投票とトランプ当選は政治的既成勢力とグローバリゼーションに対する増大する大衆の怒りが原因であり、指導者たちは世界のエリートが集まる豪華なスキーリゾートで開かれる会議とは言え、二の足を踏んでいる。
“But after the Brexit vote in Britain and the election of Trump were attributed to rising public anger with the political establishment and globalisation, leaders may be more reluctant than usual to travel to a conference at a plush ski resort that has become synonymous with the global elite.” (Daily Mail “Germany’s Merkel to skip Davos on eve of Trump presidency” )

2017年ダボス会議 アメリカからは誰が出席するのか

アメリカはバイデン副大統領ケリー国務長官が出席するが、フォーラムの数日後に退任というタイミングでの出席は同会議の主催者シュワブ氏によれば「引継ぎ中のチームから新体制(トランプ政権)を代表して来る」とのことで、交代する前に引き継いでおきたいことを伝えに来るということでしょう。

ダボス会議、今回のテーマは?

1月7日~20日にかけて行われる世界経済フォーラム(World Economic Forum)通称「ダボス会議」。

今回のテーマは“Responsive and Responsible Leadership(敏感で責任あるリーダーシップ)”

昨年のダボス会議のテーマは 「第四次産業革命(The Fourth Industrial Revolution)」で、

その速度、システムにおける影響。現在の大躍進は歴史に前例のないスピードで起こっている。

“velocity, scope, and systems impact. The speed of current breakthroughs has no historical precedent.”

AI(人工知能)が人間を超える日、自動運転車は車の未来をどう変えるか、3Dプリンターは製造業を破壊するか、各超現実や人間とコンピューターの融合は世界をどう変えるか、といったエリアについてさまざまなディスカッションがなされました。

それに対し、今回のテーマを“Responsive and Responsible Leadership(敏感で責任あるリーダーシップ)”としている。

その背景は、シュワブ氏による”Five leadership priorities for 2017”  のなかで触れられている以下の文章からわかります。

昨年起きたことからもわかるように、リーダー(指導者)たちは役割を任せてくれている人々の求めることにResponsive(敏感)でなければならず、ビジョンを示し進む方向を示しながら、人々がより良い未来を思い描けるようにしなければなりません。

As the past year has demonstrated, leaders must be responsive to the demands of the people who have entrusted them to lead, while also providing a vision and a way forward, so that people can imagine a better future.

第4次産業革命をしっかりと把握しながら、AI、モノのインターネット、自動運転車、3D印刷、ナノテクノロジー、量子計算といった分野における進歩によってもたらされる劇的な変化を見据えて各種産業を再定義し、一から新しいものを作り出す力が指導者には求められるのです。

Firstly, they will have to come to grips with the Fourth Industrial Revolution, which is redefining entire industries, and creating new ones from scratch, owing to groundbreaking advances in artificial intelligence, robotics, the Internet of Things, self-driving vehicles, 3D-printing, nanotechnology, biotechnology, and quantum computing.

そこにあるメッセージは、

リーダーたちは進むべき方向を見失ってはいけません、すなわち真の価値観に根差した力強いビジョンから逸脱してはいけないということなのです。

They must never deviate from their true north, which is to say, a strong vision based on authentic values.

 

という言葉に集約されているように感じました。

 

《注目の英語表現》

  • dwell  重点を置く
  • take centre stage at  主役を取りに行く
  • political establishment  政治的既成勢力
  • plush  豪華な (もともとはビロードのプラシ天のことで、俗に豪華・贅沢品を意味する)
  • responsive  要求に対応する、反応が早い、頻繁に反応する
  • responsible  責任ある、責任能力がある
  • no historical precedent  歴史的前例のない
  • true north  進むべき方向

 

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フォーカスグループインタビュー(FGI)の通訳 [1] 通訳環境について

ロンドン在住日英通訳者の平松里英(rielondon)です。今回は、シリーズ第1弾—通訳と音量についてです。

フォーカスグループインタビュー とは

マーケティング調査の方法には、「定量調査(Quantitative Research)」と「定性調査(Qualitative Research)」があります。定量調査は、「量」。つまり明確な数値・量であらわされる定量データを集め分析するもの。定性調査は「質」。つまり、数値化できない個人の発言・行動を解釈し新しい理解やヒントにつながる「質的データ」を取る調査のことです。頭文字をとって「FGI」、または略して「グルイン」とも呼ばれます。

後者の「定性調査」の手法のひとつとして、フォーカスグループインタビュー があります。少人数の想定購入者からなる参加者グループに司会者(モデレーター)が進行しながらディスカッションを進めます。そこで繰り広げられる発言内容を分析するものです。

なぜ通訳が必要になるのか

フォーカスグループインタビュー でなぜ通訳者が必要になるかというと、対象者が依頼者(クライアント)のわからない言語を話す場合(非日本語話者)、つまり海外の想定購入者を相手に調査を行うとき、通訳が必要になります。この場合、所定の時間(1セッション2時間程度が多い)で約4~8人の複数の人が代わる代わる発言するので、通訳モードは同時通訳になり、同時通訳対応の設備が必要になります。(ユーザーインタビューなどは逐次通訳の場合もあります。)

フォーカスグループインタビューでの通訳環境の重要性

クライアント(企業)と同じ部屋(対象者+モデレーターのいる部屋とマジックミラーで隔てた反対側の部屋)で行うときと、別の部屋で通訳をする場合とがあり、通訳を取り巻く環境に関しては、主に以下の4つのパターンがあります。

同室/別室 通訳への音のインプット 通訳のアウトプット
〔1〕 同じ部屋 セッションのやり取りはヘッドフォンから 通訳の訳出は普通の声で
〔2〕 同じ部屋 セッションのやり取りはスピーカーから 通訳の訳出は耳元でウィスパリング
〔3〕 別々の部屋 セッションのやり取りはヘッドフォンから 通訳の訳はヘッドフォンから
〔4〕 別々の部屋 セッションのやり取りはヘッドフォンから 通訳の訳はスピーカーから

〔パターン1〕

同じ部屋の場合、よくあるのは対象者やモデレーターの声(セッションをやっている部屋からの音)は通訳者の耳にヘッドフォンから流れてきて、クライアントの人たちは通訳者の声をそのままマイクを通さずに聞くことが多いです。

〔パターン2〕

同じ部屋で、対象者やモデレーターの声(セッションをやっている部屋の音)はクライアントも通訳者もスピーカーから聞き、通訳者の訳出はクライアントの耳元でウィスパリング。

〔パターン3〕

別の部屋で、通訳者の訳をマイクで拾ってクライアントの部屋のスピーカーで流し、セッションの中での外国語でのやり取りはヘッドフォンで(クライアントのうち)聞きたい人は聞く。

〔パターン4〕

別の部屋で、クライアントの中で英語のままで分かる人が多い場合は、セッション(対象者とモデレーターの英語のやり取り)はスピーカーで流し、通訳の訳はヘッドフォンで通訳が必要な人だけ聞くというパターンもあります。

ベストパターンとワーストパターン

では、このなかでベストのパターンと最悪のパターンはどれでしょう。

ベストは〔1〕、そして最悪なのは〔2〕のパターンです。1・3・4は通訳者の耳にはヘッドフォンで音が送られてきますからインプットの条件は(ほぼ)同じです。では「なぜ1がベストか」というと、

  • 視界がクライアントと同じであること(別部屋=通訳部屋は狭く視界が悪いことが多い)、
  • クライアントとのセッション中のコミュニケーションが比較的はかりやすいから。

他方、最悪のパターンはどれかというと「2」で、その理由は、通訳者がインプットをクライアント全員と同室でステレオから聞かなければならないこと。

なぜそれが問題なのか。

クライアントはセッション中お互いに相談をしたり、談笑したりすることもあります。それだけではありません。ドアの開閉、その他にも様々な雑音が発生します。

ノイズの発生頻度(リスク)が一番高いので、通訳作業が妨害されるのです。

しかも、インプットを確保するため、また、通訳が必要なの人がクライアントのなかの一部の人であることもあり、アウトプットはウィスパリングになります。

このとき、

通訳者は黙って聞いているのとは違い、自分の声が自分の耳に聞こえている状態です。

どういうことかというと、

外から耳に入ってくる自分の声、それプラス、骨伝導で耳に入ってくる自分の声が邪魔になるのです。訳さなければならない音声(話者の発話)を聴くことに集中したい。それにも拘わらず、不可避に自分の声という邪魔が入ってきます。

聴きながら話しているためです。ステレオからの音が黙っているときのようにはきれいにきこえません。

これが、聞いているだけの作業と、同時通訳の作業の決定的な違いです。

このように、同時通訳をするときは常に邪魔が入るので、できる限りノイズを減らし、元発言のインプットを確保するようにしなければなりません。

大事なことなのでもう一度、言い換えてみます。

同時通訳作業では、インプットアウトプットの音が干渉してしまうのです。

当然、作業の大きな妨げとなります。

だからこそ「2」のパターンには無理があるのです。

通訳者は、ステレオから流れてくる音(英語)を頼りにしながら、「生耳」(=ヘッドフォンからではない)で聴き、クライアントにウィスパリング(アウトプット)しますが、ステレオから流れてくる音のボリューム(インプット)よりも通訳者の声(アウトプット)のボリュームが大きくないとクライアントには聞こえないので、ある程度大きな声を出さなければなりません。同じ空間で、です。

しかし、上で説明したように、大きな声を出すと自分の声が邪魔になって、インプットがとても聞こえづらい

そして、「2」の場合、ヘッドフォンで別ルートから音源を取る、つまりインプットをバイパスする、ということができません。インプットが確保できない。

部屋の中で歩くときの靴の音やドアの開け閉めの音、クライアント同士の話し声や、冷蔵庫の開け閉め資料(紙)をめくる音など様々なノイズがたくさん!

このなかで行うのですから、ノイズの三重苦になってしまうのです。

このようなことから、せっかくの対象者のレスポンスが十分に拾えなくなってしまうので、この方法はお勧めできないというわけです。

通訳環境:最重要ポイント

どのパターンにも共通して重要な要素は音量です。そのことを音響システムを調整しているテクニシャン(技術者)が心得ていて、スタジオ設計にも反映されていればいいのですが、音質・音量の調整がほとんどできないスタジオもあるので場所を選択する際に気を付ける必要があります。

発言が重ならないよう、一人一人順番に話してくれるよう、どれだけ参加者に注意を促しても、発言が重ってしまうことが多い。これは他の通訳の仕事と大きく異なる点です。

通訳者は音量を上げたり下げたりして、条件を調整するしかありません。

また、自然な発言、自由な発言を集めることが大切になりますから、発言が重ならないようにモデレーターに何度も注意させれば、話の流れを遮ったり、場の雰囲気をぎくしゃくさせてしまいません。これでは、そもそもの目的が損なわれてしまいます。

やはり、フォーカスグループインタビューでは、音量コントロールが通訳側でできる、音調整能力の高いスタジオを選択することが重要なポイントです。

最後までお読みいただきありがとうございます。今回の記事はいかがでしたか。ご質問、コメント、そしてご相談も大歓迎です。コメント欄、お問い合わせページ、またはTwitter からどうぞ。

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国連事務総長 就任「2017年を平和の年に」演説

Appeal for Peace 01.01.2017

ロンドン在住日英通訳者の平松里英(rielondon)です。今回は 国連事務総長正式就任2017年年初の演説 を取り上げます。「気になる英語表現」は最後にあります。

 

【今日取り上げるニュースメディア】

UN News Centre New UN chief Guterres pledges to make 2017 ‘a year for peace’

【ざっくりサマリー】

✔ 新 国連事務総長にポルトガルのグテーレス氏が正式に就任

✔ 年初の演説で「2017年を平和の年に」と訴え

✔ 次期 国連事務総長に決まったのは2016年10月13日

✔ 任期は5年後の2021年12月31日まで

✔ グテーレス氏の略歴

2017年1月1日 新 国連 事務総長の正式就任

2017年元旦、第9代 国際連合事務総長にアントニオ・グテーレス(António Guterres)氏が国連総会(the UN General Assembly)にて正式に就任しました。

「これまでは安全保障理事会が候補を一人に絞り、この唯一の候補のみが国連総会に提案されていました。安全保障理事会でのいわゆる密室の協議で事実上決定されていたため、選出プロセスの閉鎖性に批判が集まっていました。」(http://www.unic.or.jp/news_press/info/18566/)

これを受け、2016年4月には国連初の試みとなる公開面談が行われ、10月に初めに国連安全保障理事会(the UN Security Council)が国連総会に勧告し、就任が確定しました。

そして、就任宣誓式(swearing in – ceremony)が12月12日でした。

激震の2016年、2017年は?

「一年の計は元旦にあり」

暗澹たる、そして激動・激震の2016年が幕を閉じ、続く新年の幕開けでの交代だけあって、

2017年を方向づける幸先の良い出発だったと、後で振り返れるよう願わずにはいられません。

国連事務総長の任期

さて、グテーレス新事務総長(Secretary-General)は1995年から2002年までポルトガルの首相を務め、

2005年から2015年までは国連難民高等弁務官(the UN High Commissioner for Refugees )として様々な活動に従事。国連事務総長の任期は5年なので、2021年末までということになります。

なお、第8代の国連事務総長 藩基文氏の任期は2007年から2016年までの10年間(つまり5年任期を2期)でした。

これまでは、近年では、第6代事務総長 エジプトのブトロス・ブトロス-ガーリ氏が、アメリカが再選に際し拒否権を発動したため5年で退任した以外は、第7代 コフィ・アナン氏、第5代 ハビエル・ペレス・デクエヤル氏も2期(10年)務めています。

事務総長による新年のスピーチ全文

新事務総長は新年の抱負として、“Peace must be our goal and our guide” と述べ、2017年を平和に向けた年とするようすべての市民、各国政府、指導者たち(all citizens, governments and leaders)に向けて様々な相違を超える努力をするよう(to strive to overcome differences)訴えました。

2017年1月1日 国連事務総長スピーチ 平和への訴え -全文-(Appeal for peace from UN Secretary-General Antonio Guterres)

他メディアの関連ニュース

2016年10月13日のCNNニュース「国連がポルトガルのアントニオ・グテーレス氏を次期事務総長承認 (UN approves Portugal’s Antonio Guterres as next secretary-general)

では、10月5日に逃げ切りの最有力候補as the Security Council’s runaway favorite)となっていた氏を193加盟国の全会一致で次期事務総長となることを承認したと報道されています。

どんな国連事務総長になるでしょうか。

2016年10月6日のBBCニュース 「グテーレス氏とは誰なのか。次期国連事務総長の人物像 (Who is Antonio Guterres? Meet the UN’s next secretary-general)」では、

グテーレス氏は副事務総長に女性を起用すると予想されます。「男女共同参画」の国連における重要性を説いてきたからです。

He is widely expected to select a woman as deputy secretary-general, having said that “gender parity” is crucial at the United Nations.

とあり、

ヨーロッパ外交評議会の研究員、リチャード・ゴワン氏によれば、内部関係者はポルトガル出身のグテーレス氏が「国連に必要な『尻叩き』をしてくれるのではないか」と話している、とのこと。

Richard Gowan, a UN expert at the European Council on Foreign Relations, said insiders believed Mr Guterres, from Portugal, “could give the UN the kind of kick up the backside it needs”.

グテーレス氏の背景

グテーレス氏は、50年余り続いたポルトガルの独裁政治が終焉した1974年に社会党に入党し、間もなく専従の政治家になりました。[それ以前は大学で電気工学と物理を勉強し助教授をしていた。]

He joined the Socialist party in 1974 – the same year five decades of dictatorship came to an end in Portugal – and soon became a full-time politician.

 

1995年には社会党の書記長に就任、のちに首相に就任し2002年まで務めました。

In 1995, three years after being elected the Socialist Party’s secretary-general, he was voted in as prime minister, a position he held until 2002.

 

今回の国連事務総長の指名前のUNHCR(国連難民高等弁務官)としての経験が今回の人事への試金石(=意訳)となりました。

Prior to his nomination, he said that his work at the UNHCR had been excellent preparation for a secretary-general.

第9代 国連事務総長の役割

事務総長の役割(The role of the Secretary-General)」に、以下のように記されています(抜粋)。

立場が対等な外交家であり唱道者であり、公務員であり、CEOである、事務総長は国連の理想の早朝であり世界の人々、なかでも特に貧しく弱い人々の利害における代弁者である。

Equal parts diplomat and advocate, civil servant and CEO, the Secretary-General is a symbol of United Nations ideals and a spokesman for the interests of the world’s peoples, in particular the poor and vulnerable among them.

 

《注目の英語表現》

  • The UN Security Council  国連安全保障理事会
  • The UN General Assembly  国連総会
  • gender parity  男女同権、男女共同参画
  • at the helm of the United Nations  国連の舵取り役に当たり
  • civilians are pounded with deadly force  市民が致死性の高い武力で猛攻撃を受けている
  • forced from their homes, dispossessed and destitute  家を追われ、貧窮しており
  • fueling cycles of mistrust and fear that can last for generations  不信と不安の循環のエネルギーとなって何世代nにも続く可能性がある
  • peace must be our goal and our guide  平和が私たちの目標であり、手引きでなくてはならない
  • I appeal to you all  懇願する(切に訴える)
  • equal parts diplomat and advocate  立場が対等な外交家であり唱道者
  • the poor and vulnerable  貧しく弱い立場にある人々

 

今年最初の記事は1月1日のグテーレス氏のスピーチの中から、次のことばで締めくくろうと思います。

それではまた!

 

“all that we strive for as a human family […] depends on peace.

人類 として私たちが尽力することのすべては平和にかかっています。

But peace depends on us.”

ところが、平和は私たちにかかっているのです。

 

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▶ 関連記事 国際連合広報センター「この人に聞く:次期国連事務総長に任命されたアントニオ・グテーレス氏」

 

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