「だから資料が本当はあるのに出さないなんてもってのほか」

ロンドンの在住通訳者の平松里英(rielondon)です。

通訳が「資料ください」と「しつこく」お願いする理由について。

つい最近、同僚と会って話をしていて出てきたのですが、二人揃って啞然、愕然、呆然としたのが、

「資料なしで準備ができないならプロ失格」

と思っている人がいらっしゃること。

先日「日本の食文化紹介 和菓子」で書かせていただいた「最中」を例にすると、
私もたまにいただきますが、だからといって何で出来ていて、どういう工程で作られているか、
なんて、いつも意識しながら食べているわけではありませんよね。
日本語で聞いたらそのままわかる(ような気がする)けれど、
それを自分の言葉で(日本語同士で OK)説明できるかというと、これはまた別の問題です。
その場で当てられたら、とっさに説明するなんてことは、普通はできません。
でも通訳するときは、それではいけないわけです。
だから、準備をしておかないと。

準備、つまり「資料ください」です。

このように、通訳者が「事前に」「資料をください」と「しつこく」お願いするのにはちゃんと理由があるのです。
たくさんある中でほんの一握り紹介するつもりで説明したいと思います。
準備=資料が大切な理由のひとつに通訳作業の特徴があります。
ご存知のように、通訳は聴いた言葉
つまり、

耳に聞こえてきた言葉を処理するので、

事前に馴染んでいない言葉が発言者の口から突然飛び出すと、
 
他のお仕事をされている方なら思いもよらないことかもしれませんが、
「キザト?? 字は何 ?」 となって立ち往生してしまう危険性がある。
そこへ持ってきて、発言者一人一人個性がある。クセがあるので余計に負荷がかかります。
 
声の小さい人、滑舌が曖昧な人、地方訛りや外国語訛りがあったり。早口や、非常にハスキーな声の人もいます。
発言者が発言の途中で気が付いてマイクをつければ当然ある語の途中からしか聞こえません。
発言中、紙を触ったりペンを無意識にカチカチしたり、指をテーブルの上でカタカタ鳴らす人もいます。マイクから近い(!)
キーボードを叩く音などもそうですが、こういう音、マイクはすごく拾うんです。人間の耳とは感知の仕方が違うので。
大事な話よりも大きい音で拾ってしまうことが多く、耳障りでしょうがない。プルタブを引く音なんてもってのほか。
それに、同時通訳でブースにいたら話者から物理的に遠く、対面で通訳をしている時とは違い、訊き返すことができないので、余計に困ってしまいます。
 

話し手にとっては当たり前のことは、

決して他の人にとっても当たり前のことではありません。
学会や特定のスポーツのファンが集まっている場(テレビ番組など)であれば、
話し手はもちろん、聞き手にとっても当たり前かもしれませんが、
それが通訳者にとっても「すでに」当たり前かどうかは別の話。
どこぞの会社の社内用語だったらなおのことです。
でもこれが実によく登場するんですよね。
完全に内輪ネタですから、ちゃんと事前に解説しておいてもらえなければ、外から呼んだ通訳には対応できなくても当然のこと。
下調べをして、学習(予習?)しておき、「生砂糖」は
Kizato, which means raw sugar in Japanese  などと解説しながら通訳を進めるわけです。
こういうことがとても多いのです。
(Photo:http://www.jcfl.ac.jp/course/curriculum/a-k.html)

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